なぜUFBは長持ちする?安定性の科学(まだ分かっていないことも)
なぜUFBは長持ちする?安定性の科学(まだ分かっていないことも)
「目に見えないほど小さな泡が、なぜすぐ消えないの?」「炭酸の泡はすぐ抜けるのに、UFBだけ長く残るなんて本当?」——製品の説明を読むほど、この素朴な引っかかりは強くなります。
まず、正直なところをお伝えします。ウルトラファインバブル(UFB)は、複数の測定手法で存在を支持する報告があります。生成した直後だけでなく、数時間から、条件によっては数ヶ月とどまったという報告もあります。ところが、なぜそんなに長持ちするのかは、まだ科学的に決着していません。ふつうの物理で計算すると、これほど小さな泡は一瞬で溶けて消えるはずだからです。
つまりUFBは「あることは測れているけれど、なぜ安定なのかは説明しきれていない」という段階です。この記事では、その理由と仮説を、わかっている範囲とわかっていない範囲に分けて整理します。誇大な断定を避けて製品を選ぶための土台になるはずです。
ふつうの物理だと「一瞬で消える」はずだった
まず、直感に反する事実から。小さな泡ほど、実は消えやすいのです。
泡の中の気体には、まわりの水にとけ込もうとする圧力がかかっています。これをラプラス圧(泡が小さいほど強くなる内側の圧力)と呼びます。泡が小さいほどこの圧力は跳ね上がります。名古屋大学の安田啓司氏の解説によると、直径100ナノメートル(1万分の1ミリ)ほどの泡の中の圧力は、およそ3メガパスカル(約30気圧)にもなります。それだけ強い力で、内側から気体が水へ押し出されます。
この圧力に押し出されて、泡の中の気体はどんどん水にとけていきます。産業技術総合研究所の安井久一氏は、こうした泡が溶けて消えるまでの時間を計算しています。半径100ナノメートルの泡なら、その寿命はおよそ80マイクロ秒(100万分の80秒)。まばたきよりずっと速く消える計算です。バルクナノバブルの安定性を整理したChenらの2025年の総説でも、同じくらいの大きさの泡は理論上0.02秒ほどで消えるはず、と述べられています。
理屈のうえでは、UFBは生まれた瞬間に消えてしまうはず。それが出発点でした。
でも実際には「残っている」ことが測れている
ところが実際に測ってみると、粒子の信号は消えずに残っていました。
安井氏の解説では、共振式質量測定という方法(泡と固体の粒子を浮力の違いで見分ける測定)によって、気体でできた小さな泡が水中に確かにあることが実験で確かめられています。透明な水の中に1ミリリットルあたり1000万〜1億個、大きさは100〜200ナノメートルにピークがあると報告されています。
寿命についても、理論とはかけ離れた結果が出ています。
- 生成装置でUFBを作った2023年の物性研究(『In Vivo』誌)では、粒子の平均の大きさは約120ナノメートル。生成から2週間で個数濃度は3割ほど減りましたが、その後は6ヶ月まで、粒子の信号(個数濃度)が安定して検出され続けました。ただしこの測り方(NTA)は泡と固体の粒子を見分けられないので、「6ヶ月ずっと泡があった」とまでは言い切れません。
- 安田氏の解説でも、UFBが数ヶ月にわたって安定したという報告が紹介されています。
一瞬で消えるはずの泡が、数ヶ月。理論と実測のこの食い違いこそが、UFB研究のいちばんおもしろく、そして未解決の部分です。
ガスの種類でも「持ち」は変わりうる
安定性を語るうえで見落とせないのが、泡の中身のガスです。同じUFBでも、詰まっているガスの種類によって寿命が変わったという報告があります。
Ushikuboらが2010年に『Colloids and Surfaces A』誌で報告した実験がわかりやすい例です。水に空気または酸素をとかしてナノサイズの泡を作り、その存在と寿命を測りました。すると、
- 純酸素の泡は、数日にわたって検出できた
- 空気の泡は、1時間ももたずに検出できなくなった
同じ大きさでも、これだけ差が出ました。ただしこれはUshikuboらの1つの実験結果で、水質や作り方などの条件にも左右されます。一般に「酸素なら何日」と決まっているわけではありません。それでも、ガスの種類で結果が変わりうること自体が、「泡の大きさだけでは寿命は決まらない」という手がかりになっています。製品の宣伝で「長期間安定」とうたわれていても、どんな条件での話かで意味が変わることを覚えておくと、冷静に読めます。
なぜ安定なのか:有力な仮説と、その弱点
では、なぜ消えないのか。研究者たちはいくつもの説を出してきましたが、どれも決め手には至っていません。いちばんよく語られる仮説と、その弱点を正直に並べます。
界面の電気(ゼータ電位)で守られている説 気体と水の境目は、電気を帯びています。産総研の高橋正好氏は、マイクロバブル(UFBより大きい泡)を使った測定で、幅広い条件でこの境目がマイナスに帯電することを示しました(2005年、『J. Phys. Chem. B』誌)。帯電した泡どうしは反発し合い、くっついて大きくなったり消えたりしにくくなる——これが国内発の代表的な安定化仮説の起点です。ただしこれはマイクロバブルでの測定を土台にした仮説であって、UFBそのもので安定化が確かめられた結果ではありません。実際、先ほどのUshikuboらの実験でも、泡の表面はマイナスに帯電していました。
ただし弱点があります。Chenらの2025年の総説によると、電気の力だけで小さな泡を支えようとすると、計算上は実測の10倍以上の帯電が必要になり、数字が合いません。電気だけでは説明しきれないのです。
そのほかの説 泡の表面を不純物の膜がおおって守っているという説、泡の外側のガス濃度が高く保たれて溶け出しを抑えているという説、熱のゆらぎで安定するという説など、いくつも提案されています。安井氏も「安定化の仕組みは未解明で論争が続いている」とはっきり書いています。Chenらの総説の結論も、どの単一の説も観測のすべてを説明できず、複数の要因の組み合わせが最有力だが、まだ推測の域を出ない、というものでした。
正直なところ、「なぜ長持ちするのか」の答えは、2026年時点でもまだ完成していません。
「そもそも本当に泡なのか」という論争もある
もう一段深い話もしておきます。研究の世界には、「測定で見えている小さな粒は、本当に気体の泡なのか。別の何かではないか」という議論も残っています。
ジャダフとバリグーは2019年に『Langmuir』誌で、生成した粒子が気体を含む泡だと結論づけました。一方で、その手法では気泡と決めつけられないと批判するコメント論文も出ており、専門家の間でも見解が割れています。この対立が続いていること自体が、UFBがまだ研究の途上にある分野だと物語っています。
こう書くと不安に感じるかもしれませんが、悲観する話ではありません。存在そのものは複数の測定法で確かめられつつあり、規格づくりや測定法の整備も進んでいます。分かっている範囲と、まだ分かっていない範囲を、正直に見分けて選ぶことが大切です。
ここまでのまとめ:正直な現在地
- ふつうの物理では、UFBほど小さな泡は一瞬(マイクロ秒〜0.02秒ほど)で溶けて消えるはず。
- でも実際には、測定で存在が確かめられ、数時間から条件次第で数ヶ月も残った報告がある。
- 中身のガスによっても寿命は変わりうる(ある実験では酸素が数日、空気は1時間未満)。ただし条件しだいで、一般則ではない。
- なぜ安定なのかは、界面の電気などの仮説が出ているがまだ決着していない。存在そのものを慎重に検証する議論も続いている。
だからこそ、製品選びでは「なぜか長持ちする、まだ完全には説明できない現象」だと、等身大にとらえることが役立ちます。「独自の技術で半永久的に安定」といった言い切りを見たら、いったん立ち止まる。そのくらいの距離感が、ちょうどよいでしょう。
こんな人は、次にこの記事へ
- 「1cc○○万個」という数字の意味や、そもそもどう測っているのかが気になる人 → 「個数濃度と測定の見方」
- UFBそのものの基礎を先に押さえたい人 → 「ウルトラファインバブルとは」
- マイクロバブルやナノバブルとの呼び分けを知りたい人 → 「マイクロバブル・ナノバブル・UFBの違い」
- 「UFBは怪しいのでは」と感じている人 → 「UFBは怪しい?規格と測定から検証」
- 結局どんな効果が確かめられているのか知りたい人 → 「UFBの効果は?わかっていること・いないこと」
- 現在地を踏まえて、そろそろ製品を選びたい人 → 泡のサイズ・水流・水圧・価格を並べて見比べられる「ファインバブルシャワーヘッド比較」で、うたい文句を冷静に確かめながら選べます。
よくある質問
Q. UFBはどのくらい水の中に残りますか? A. 条件によって大きく違います。ある物性研究では、平均約120ナノメートルの粒子の信号が6ヶ月まで検出され続けました(ただしこの測り方では泡と固体の粒子を区別できません)。別の実験では、空気の泡は1時間ももたずに検出できなくなりました。ガスの種類・水質・作り方で変わるため、「何時間もつ」と一律には言えません。
Q. 炭酸のシュワシュワはすぐ消えるのに、なぜUFBは長持ちするのですか? A. 目に見える炭酸の泡は大きく、浮かんで水面ではじけて消えます。UFBは桁違いに小さく、浮きにくく水中をただよいます。ただし「なぜ溶けて消えないのか」の完全な説明は、まだ科学的に決着していません。
Q. 「半永久的に安定」という宣伝は本当ですか? A. 慎重に見たほうがよい表現です。時間とともに濃度が減った報告もあります。長期間の安定をうたう場合は、どんな条件での話かを確かめるのが安全です。
- 安田啓司「ウルトラファインバブルの安定性」『化学工学』84(12), 2020(研究で確認:学会誌解説)[UFB-GEN-02]
- 安井久一「ウルトラファインバブル」『日本音響学会誌』73(7), 2017(研究で確認:学会誌)[UFB-GEN-07]
- Chen C., Gao Y., Zhang X.「The Existence and Stability Mechanism of Bulk Nanobubbles: A Review」Nanomaterials 2025, 15(4):314(研究で確認:査読つき総説)[UFB-GEN-12]
- Ushikubo F.Y. ほか「Evidence of the existence and stability of nano-bubbles in water」Colloids Surf. A 361, 2010(研究で確認:査読つき学術誌)[UFB-GEN-13]
- Takahashi M.「Zeta Potential of Microbubbles in Aqueous Solutions」J. Phys. Chem. B 109(46), 2005(研究で確認:査読つき学術誌)[UFB-GEN-14]
- Jadhav & Barigou「Bulk Nanobubbles or Not Nanobubbles: That is the Question」Langmuir 2019(研究で確認:査読つき学術誌)[UFB-GEN-18]
- 「Physical Properties of Ultrafine Bubbles Generated Using a Generator System」In Vivo 37(6), 2023(研究で確認:査読つき学術誌)[UFB-GEN-29]
※情報源の区分 —— 研究で確認/公的な情報/メーカー調べ/使った人の声。出典番号[UFB-…]は編集部の引用データベースに対応します。



